大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所函館支部 昭和25年(う)107号 判決

被告人

佐藤藤吉

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人樋渡道一の控訴趣意第一点は、

原判決ハ法ノ解釈ヲ誤リコレヲ適用シタル違法アリト信ズ。

原判決ハ被告人ガ昭和二十四年六月十日頃自已生産ニ係ル鰊油ドラム罐入十本ヲ元塚静ニ売渡シタル事実ヲ認定シ之レヲ臨時物資需給調整法違反ト為シ罰金五万円ヲ科シタリ。

然共右魚油ニ関スル統制ハ昭和二十五年農林省令第二十三号ヲ以テ廃止セラレタルモノナレバ刑法第六條刑事訴訟法第三百三十七條ニヨリ当然免訴ノ判決ヲ言渡サルベキニ不拘茲ニ出デザル原判決ハ法ノ解釈ヲ誤リタル違法アリト信ズ。

尤モ右農林省令ハ其ノ附則ニ於テ本令施行前ノ行為ニ対スル罰則ノ適用ニツイテハ尚従前ノ例ニヨルト定メアリ本件可罰性ニハ影響ナキガ如ク見エルモ右附則ハ法律ニヨラズシテ人ヲ処罰スルコトヲ定メタルコトニ帰スルモノナレバ憲法第三十一條違反トシテ附則ソレ自体ガ無効ナルコトヲ信ズルモノナリ。

というのである。

臨時物資需給調整法に基く魚油の統制は昭和二十五年三月二十四日農林省令第三十三号により廃止されたことは所論の通りである。しかし同令はその附則において本令施行前の行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例によることを規定している。所論は右附則の規定は憲法第三十一條に違反するものであると非難するけれども、右附則はこれによつて新らしく罰則を設けたものでないばかりでなく、臨時物資需給調整法はなお存続し、同法に附属する省令による物資等の指定は、戦後の産業の回復及び振興に関し、その時の経済状態に対処するための必要に迫られてこれをなすものであつて、いわゆる限時法に属するから、事情の変化等のためその指定が廃止されても、その存続中にこれに違反してなした行為を処罰しうるものと解するのを相当とし、右附則の規定はその趣旨を明らかにしたものに過ぎないから、憲法第三十一條に違反しない。従つて原判決には所論の違法なく、この点に関する論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例